関西地方に住むB子さんは7年前、30代で子宮頸(けい)がんの手術を受けた後、夫との性生活がなくなった。手術で子宮と卵巣をとり、放射線治療も受けた。当初は、治療による体のだるさに加え、再発の不安で眠れず、A子さん自身、気持ちが不安定で、夫も誘ってこなかった。今、再発の不安は遠のいたが、二人の間はそのままだ。
「私の体を気遣ってくれているのかもしれませんが、女性として見ていないのでは、と怖くて聞けないままです。正直、少し寂しい思いもあります」と言う。
婦人科のがんは、性生活にも少なからず影響を与える。これまで通り相手が満足するかという不安。羞恥(しゅうち)心から、率直な意思疎通ができないこともある。そして治療の影響は、心だけではなく、体にも残る。手術では、子宮や卵巣と一緒に、膣(ちつ)の一部も摘出することがある。両側の卵巣をとると、性ホルモンが分泌されず、性欲の低下や、膣の乾燥による性交痛を招く。手術や放射線治療で膣が委縮することもある。
国立病院機構千葉医療センター(千葉市中央区)産婦人科医長の大川玲子さんは、子宮や卵巣をとる手術を行う時は、事前に、副作用として起こる性の問題や対処法を説明する。手術後も、性生活の悩みはないか尋ね、アドバイスもする。
性交痛は、薬局で買えるゼリー剤で膣を潤す、体位を工夫するなどの方法で緩和できるし、医療機関では、膣の委縮を防ぐ器具も扱っている。「手術後に夫婦のふれあいが増えたという人や、変わらず性生活を楽しむ人もいます」と大川さん。しかし一方には、「心理的にも壁ができて、人にも相談しづらく、悩みを抱えている方もいます」と言う。痛みを我慢し続けたり、性生活を避けたりする人もいる。
手術後の定期検診では、排尿障害や足のむくみといった後遺症については質問しても、性の悩みについて相談できる雰囲気ではなく、多くの医師が性の問題に対応しきれていない。そこで医療者向けに、がん患者の性相談の研修会も開かれている。主催する東大大学院助手の内科医高橋都さんは、「我慢は禁物です。少しずつでも、勇気を出して、素直な気持ちをパートナーに伝え、信頼できる医療者に相談してみてほしい」と訴える。
患者向けにがん治療後の性生活について書かれた本もわずかだがある。手に取ることが問題解決の糸口になるかもしれない。
【がんと性に関する本】
◇「がん患者の〈幸せな性〉」(アメリカがん協会編、高橋都?針間克己訳、2000円税別、春秋社) ※巻末に日本の相談機関や患者会の情報を収録
◇「ボディイメージ、セクシュアリティとがん」(キャンサーリンク編、かながわ?がんQOL研究会訳) ※同研究会(070?5105?8167)に申し込む。1冊500円だが、がん患者と家族は無料
◇「子宮?卵巣がんと告げられたとき」(まつばらけい?大島寿美子著、740円税別、岩波書店) ※治療法や後遺症全般についてくわしく解説 |