糖尿病のEDの漢方治療 勃起不堅とは?
現代中国の医学用語に勃起不堅がある。いわゆる「半立ち」の状態で十分な勃起が得られない状態を指す。経済発展の著しい中国沿海地区、特に上海地区ではうなされたような美食、過食過飲の傾向が出現し、どのレストランも空席を見つけるのが難しいくらいである。現代日本での国民病ともいえる糖尿病が上海地区でも急速に増加している。そこで問題となっているのが「勃起不堅」である。始末に悪いのは、加えて「半立ち状態での早漏」が多くなっていることだ。極端なケースでは30秒から1分弱で射精してしまう。
現代医学では、糖尿病に伴いやすい(正常人の約3〜4倍)EDの原因として動脈硬化症、糖尿病性神経症、テストステロンなどの男性ホルモンの減少、心理的ストレス、合併症に使用される薬の副作用など様々な原因を挙げている。しかし決定的な治療法がないのが現状である。
中国人は日本人と異なり、あまり医者の指示を守らない。食事療法などは至難の業だ。加えて脂肪分の多い食事である。トンポーローをつまみにビールを飲んでピーナッツをバリバリ食べて、甘い上海料理に舌鼓を打つ。注意すると「知道了、知道了 明白了(知ってるよ、わかったよ)」と言うものの延々と食事を楽しむのである。
結果、糖尿病はどんどん増加し、「勃起不堅」もまた増加する。
金が出来て、社会的な地位も安定し、暇がある程度できるようになるころ、糖尿病と「勃起不堅」に悩むことになる。そして漢方医を受診する。
「先生、 なんとかしてください。このまんまじゃ生きてる甲斐が無い。早死にしたくないから西洋薬は不要(ぶーやお)!皇帝の秘方をください!!」
勝って気ままな患者が多いのである。しかし、結果よければ理屈抜きで全部良し。
「あそこの○○医生(医師のこと)は腕がいい。あそこはヤブだ。」
などと言いながら、仲間同士で食事をする。
日本人なら
「先生の言いつけを守らなかった自分が悪いんだ。ちょっと食べ過ぎたからなぁ。
ヘモグロビンA1cも上がったし、半立ち早漏も仕方ないかぁ。」
と諦める患者の方が多い。
「しらす干しを4匹多く食べてしまったからどうしよう。」
などと過剰な心配をしている日本人の患者もいる。喜劇を通り越して悲劇的ですらある。
「任せなさ〜い。」
と請け負う態度が無いと中国では漢方医はやっていけない。いったんヤブの烙印を押されると、「悪事千里を走る」の喩えどおり、たちまち生計が成り立たなくなる。漢方医も必死である。密かに文献を読み漁り、秘方を探し求める。
ちなみに、「秘方」という言葉は現代上海女性でも使われている。
「これは、私の美容の秘方(あるいは偏方という女性もいる)よ。個人努力で見つけたの。」てな具合である。
一ヶ月で糖尿病のEDを治した「名医」の話
近代中国北京での話である。糖尿病歴7年でいわゆる勃起不堅と超がつくほどの早漏の40代の患者である。殆ど勃起しないか勃起しても不堅の状態で、1分以内に射精してしまう。西洋医学的に検査をしても「糖尿病だから仕方が無い」と言われ、テストステロンの注射とバイアグラの服用を勧められたが、両親が反対して漢方医を受診させた。中国人は西洋医の助言より親の意見を大切にする。
漢方医の診断はED、肝腎精血虚損、相火内灼、淤血阻滞であった。わかりやすく言えば、肝臓 腎臓における精気不足と血虚、陰虚による相対的な内火の増加、血流の停滞による淤血の存在ということになる。
「任せなさ〜い。」と言ったかどうかは知らないが、次のように医師は述べた。
「補益肝腎、滋陰降火そして化淤通絡を以って治るでしょう。」
日本人は4文字熟語に弱い、しかし漢字だけの国の中国人は大衆でも4文字熟語を語感でつかむのが得意だ。
「先生 非常多謝!」
治療が開始された。
生地黄 熟地黄 山茱萸 烏梅 黄連 麦冬 知母 黄柏 阿膠 生鼈甲 丹参 天花粉 九香虫(前々回に写真を載せた)を煎じ7日後、動悸や発汗しやすいなどの症状は治まり、性欲が自然に盛り上がってくるのを感じ始めた。そこで、九香虫を増量、当帰を加え更に10日後、陰茎の不堅は改善され、2〜3分の性行為が可能となった。そこで医師は紅景天、鹿茸、冬虫夏草、仙茅、仙霊脾を加えさらに10日後や如何?完全に30代の性能力を回復させることに成功した。
以来、その漢方医は糖尿病のED治療の名医の評判を獲得、現在北京で盛業である。
秘方は公開されればもはや秘方ではなくなる。人口に膾炙されるようになったこの方剤は黄連の連と烏梅の梅から「連梅湯」と呼ばれるようになった。
●紅景天(こうけいてん) 帰経: 肝 腎 その他 元来、蔵医学(チベット医学)で用いられてきたもので、近代中国になって研究が進んできた。標高4千メートル以上に咲く高山植物の根を乾燥させたものである。 効能は填精養血であり、高山地区の低酸素環境での増血を促進させる。 ソビエト(現ロシア)時代に宇宙飛行士に服用させたとの報告がある。 |