(1)一般検査
高血圧患者の初診時と 降圧療法中に少なくとも年に1回は実施すべき一般的検査として,一般尿検査,血球検査のほか,血液生化学検査として血液尿素窒素(BUN),クレアチニン(Cr),尿酸,ナトリウム(Na),カリウム(K),塩素(Cl),空腹時のトリグリセライド,HDLコレステロール,総コレステロール,LDLコレステロール,血糖,総ビリルビン,GOT,GPT,γGTP,さらに胸部X線写真(心胸郭比),心電図(左室肥大,ST-T変化,心房細動などの不整脈)がある。さらに,血清Crより推算糸球体濾過量(eGFR)を算出する。さらに,家庭血圧モニタリングを行う。
(2)糖代謝・炎症リスク評価
ヘモグロビンA1cを適宜(高血圧単独では保険適応外),空腹時血糖>100mg/dLの場合には糖尿病や耐糖能障害の診断のため75g経口ブドウ糖負荷試験を実施するのが望ましい1。欧米人に比較して,日本人の血中高感度C反応性蛋白(CRP)は低レベルではあるが,頸動脈硬化の進展や無症候性脳梗塞に関連し,将来の脳卒中リスクとなる.
(3)二次性高血圧の精査
問診,身体所見,一般臨床検査より二次性高血圧が疑われる場合の推奨されるスクリーニング検査として,早朝安静臥位30分後の採血にて,血漿レニン活性,アルドステロン,コルチゾール,ACTH,カテコールアミン3分画などのホルモン検査,24時間蓄尿中のメタネフリン2分画,またはカテコールアミン3分画や腹部エコーなどがある.睡眠時無呼吸症候群のスクリーニングとしては,夜間経皮酸素分圧モニタリングなどがある。 二次性高血圧の確定診断に専門医が行う特殊検査として,副腎CT(造影を含む),腎血流エコー,腎血流シンチ,副腎シンチ,副腎静脈サンプリング,睡眠ポリグラフィーなどがある。
(4)臓器障害の評価
種々の検査により高血圧患者の臓器障害が診断され,無症候の場合でも将来の心血管疾患発症のリスクを推定し,降圧治療に活かすことが可能となった。これらの臓器障害の評価は,高血圧患者に加えて,糖尿病や心血管イベントの既往がある高リスク患者においては,正常高値血圧から行うことが望ましい。
臓器障害の検査指標 |
1.脳 |
頭部MRI(T1,T2,T2*,FLAIR) |
無症候性脳梗塞,深部白質病変,微小脳出血 |
MRアンジオグラフィー※ |
主幹脳動脈・頸動脈の狭窄,脳動脈瘤 |
認知機能テスト |
軽度認知症(Mini-mental state examination:MMSE)スコア ≦26点,長谷川式簡易認知機能検査スコア≦25点) |
抑うつ状態評価試験 |
(軽度)抑うつ状態(GDSスコア≧10点;BDI>≧10点) |
2.心臓 |
心電図 |
左室肥大(Sokolow-Lyon基準,Cornel voltage基準,Cornel Product,ストレイン型),QT時間の延長,QT dispersionの増大,異常Q波,心房細動 |
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心臓エコー |
左室心筋重量係数,左室相対的壁肥厚,左室駆出分画,左室拡張能,心房径 |
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冠動脈MDCT※ |
石灰化病変,冠動脈狭窄,プラーク評価 |
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心臓MRI※ |
左室肥大,左房肥大 |
3.腎臓 |
推算糸球体濾過量 [eGFR(mL/分/1.73m2)] 尿検査(蛋白尿) |
慢性腎臓病(CKD) |
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尿中アルブミン排泄量*1 |
微量アルブミン尿(スポット尿)>30mg/gクレアチニン |
4.血管 |
頸動脈エコー |
内膜・中膜肥厚(IMT),max IMT(異常:>1.0mm),プラーク,狭窄病変 |
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足首・上腕血圧比(ABI) |
末梢動脈疾患(ABI<0.9) |
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脈派伝播速度(PWV) |
頸動脈・大腿動脈(cf)-PWV,上腕・足首(ba)-PWV |
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心臓足首血管指数(CAVI) |
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増幅係数 (Augmentation Index:AI)※ |
頸動脈AI,橈骨動脈AI |
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内皮機能検査※ |
血流依存性血管拡張反応 |
5.自律神経 |
起立試験 |
起立性低血圧,起立性高血圧 |
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24時間自由行動下血圧測定 (ABPM) | | |