自然の分娩期に先だって人為的に胎児を母体外に排出・分離させる行為(堕胎)を処罰する罪。妊娠中の女子(妊婦)や胎児の身体・生命を保護することを目的としている。
現行刑法は第212条から第216条において、妊婦自身が堕胎する自己堕胎罪(1年以下の懲役)、妊婦の承諾・嘱託を得て堕胎させる同意堕胎罪(2年以下の懲役)、助産師・医師などが同意堕胎を行う業務上堕胎罪(3月以上5年以下の懲役)、妊婦の意思に反して堕胎する不同意堕胎罪(6月以上7年以下の懲役)を規定し、自己堕胎罪以外の罪においては、妊婦を死傷させた場合の加重規定を設けている。
本罪における胎児は発育の程度や妊娠期間を問わない。また、堕胎は胎児を母体内で殺害することを含むが、胎児を死亡させることを要せず、母体外で生存を継続している場合でもよい。「人工妊娠中絶」も堕胎にあたるが、母体保護法(かつての優生保護法)によって、所定の条件を満たせば医師による堕胎は違法性が阻却される(同法14条1項)。
すなわち、
(1) 分娩や妊娠の継続が身体的(医学的)または経済的な理由により、母体の健康を著しく害するおそれのある場合、
(2) 脅迫や暴行などによって姦淫され妊娠した場合、医師会の指定する医師(指定医師)は、本人および配偶者の同意を得て人工妊娠中絶することが許される。
このうち、経済的理由による中絶がかなり自由に行われている日本の現状に対し、同法を改正してこれを禁圧すべきかどうかが争われている。